tofubeats - Synthesizer Vは無っていうか存在がないみたいなところがすごく良い
——もう一方のトピックはSynthesizer Vですが、どこがtofuさんにフィットしたのですか?
tofubeats 無っていうか、歌っているけど存在がないみたいなところがすごく良くて。各ライブラリーにもキャラクターがありますが、それがすごく押し出されて、みんながそのキャラについて発言するようになっていたら、僕は使わなかったと思うんですよ。つまり、技術的な良さと、人っぽいけれどまだその存在にあまりカラーがないところが良いんです。あと、もう不気味の谷を超えているから、初期のボカロのようなすっとこどっこいな“愛嬌”とかはないんですよね。今回は花隈千冬というライブラリーを使った割合が多かったんですけど、トーン低めな感じで歌わせると、本当に人間とあまり大差ないです。それで、Synthesizer Vに向けて歌わせることが、気分が違うというのが今回一番面白くて。
——“気分が違う”とは、どういうことですか?
tofubeats 楽曲提供をしている立場からすると、この人がこうなったらいいなとか、この人にこういうことを歌ってほしい……みたいな気持ちが芽生えることがない。楽曲、特に歌詞も提供するときに言うんですけど、歌う曲ってその人に何回も返ってくるんですよ。なので、人に歌詞を書くときはすごく気を遣うんですよね。そんなときにSynthesizer Vがハマったのは、実際の個人に歌わせられないことを歌わせられるけど、蓋を開けたら人はいない……その感じがすごい。でも、Synthesizer Vに当てて書かなきゃいけないみたいな。そのちぐはぐな感じが新しくて面白かった。そういう機能的な部分がクラブミュージックとの相性がいい……“魂”とか歌わせても別に恥ずかしくないっていうか。
——驚きましたよ。「I CAN FEEL IT」で、AIの声で、“魂燃やして 燃え尽きるまで”と歌っているギャップに。tofuさん自身が歌うのとは、意味合いが変わってきますよね。
tofubeats 自分で歌ったら、ちょっと心配されちゃうっていうか。でも「I CAN FEEL IT」は軽薄にすら聴こえる感じで、そこはやっぱりSynthesizer Vというか、こういうツールが持ち得る風合いを予感していていいなと思いましたね。
——「YOU-N-ME」も、“あなたと私なら大丈夫”と歌っていますが、聴いている方としては”本当に大丈夫なのか?”と感じてしまう、絶妙な余白がありますよね。
tofubeats “大丈夫”が祈りみたいな感じにしか聴こえないという。“あなた””私”は今回頻出単語なんですけど、“あなた”も“私”もいないというのもヤバくて。Synthesizer Vがそれを歌う空虚は、今回好きなところですね。恋愛の曲みたいに聴こえるけれど、全然そんなことはないみたいな感じとか、そういう雰囲気作りは結構意識しましたね。